私のお気に入りの一品 (3)

 今回ご紹介するお気に入りの一品は"細倉当百"です。文久3年(1863年)、仙台伊達藩の細倉鉱山で山内100文通用の貨幣として製作された鉛銭(ほぼ100%鉛です)です。大きさは一辺が約2寸(6㎝)の正方形で、量目は約43匁~49匁(161g~184g)くらいですが、多少の前後はあります。それが証拠に、この細倉当百は約154gと平均より少し軽めで、先日このサイトで販売した細倉当百は約190gと少し重めでした。日本の通貨で最も重い通貨だと言えます。丁銀の中には200gを超えるものも存在しますが、丁銀は秤量貨幣です。細倉当百は細倉鉱山内で100文通用と言われていますから、理屈では計数貨幣です。そういう意味では異例の大型銭で、これだけでも大変興味を惹かれました。

 面には『細倉當百』の4文字が、背には奥州藤原氏の三代目、藤原秀衡の花押が鋳出されています。平安時代の末、この地方で産出された大量の砂金が奥州藤原氏の繁栄を支えました。その繁栄にあやかりたいという鉱山関係者の願いが込められているそうです。なかなか面白い意匠です。

 初めは"鉛銭"と聞いてあまり良い印象はなかったのですが、実物を見るとこの"鉛色"が実に渋いんです。"鉛色の空"とはよく言ったものです。この細倉当百もなかなか味わいの深い一品です。鉛銭の肌は置かれた環境によって著しく異なることがよく知られています。同じ細倉鉱山の鉛を使っていても、その肌の色はさまざまです。先日このサイトで販売した細倉当百は少し黒っぽい濃い鉛色が見事でしたが、この細倉当百は白く粉を吹いたような表面です。状態的には先日販売したものよりはずっと劣りますが、これはこれで時代を感じさせる味があり、大変気に入っております。細倉当百には平地の部分にさまざまな刻印が押されているものがあり、機会があれば何種類か持ってみたいと思っておりますが、なかなか高価なので実現しますかどうか。